SDGs16「平和と公正をすべての人に」とは?現状や取り組み事例・私たちにできること

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SDGs目標16の「平和と公正をすべての人に」はキャッチコピーで、正式な目標の和訳は「持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する」です。

平和というと真っ先に紛争の根絶を思い浮かべる方も多いかもしれませんが、SDGsの目標16は紛争以外にもあらゆる暴力や犯罪の根絶、加えて誰もが司法を利用できる状態を目指しており、多角的な視点から検討しなければならない内容です。

>>SDGsの概要を詳しく知りたい方はこちらの記事をご参照ください。

SDGsとは|概要や背景・日本や世界の取り組みまで

 


目次
 
1.SDGs16「平和と公正をすべての人に」を考える
2.なぜSDGs16が必要なのか?
3.SDGs16のキーワード「包摂」をわかりやすく
4.SDGs16のポイント①紛争の根絶
5.SDGs16のポイント②あらゆる暴力の根絶
6.世界の現状「子どもへの暴力」
7.日本の現状「子どもへの暴力」
8.暴力の解決策として重要な「出生登録」
9.LGBTQへの差別も暴力につながる問題
10.SDGs目標16のポイント③あらゆる犯罪の根絶
11.SDGs16「平和と公正をすべての人に」の達成に向けた世界の取り組み
12.SDGs16「平和と公正をすべての人に」の達成に向けた日本の企業の取り組み
13.SDGs16「平和と公正をすべての人に」の達成に向けて私たちができること
14.包摂的な社会を目指して、すべての人が平和に暮らせるようにまずは現状を知ろう

 
 

SDGs目標16「平和と公正をすべての人に」を考える


では、SDGs16を達成するために、どのようなターゲットが設定されているのか見ていきましょう。
 

SDGs目標16のターゲット


ターゲットとは具体的な行動指針のようなもので、「目標番号.●」の●に数字が入る場合(例:16.1など)は目標に対する具体的な課題を挙げ、「これを達成させましょう」という意味で、●にアルファベットが入る場合(例:16.b)は課題を達成させるための手段や策を指します。

詳しい説明は後述するので、まずは一通り目を通してみましょう。
 

16.1

あらゆる場所において、すべての形態の暴力及び暴力に関連する死亡率を大幅に減少させる。

16.2

子どもに対する虐待、搾取、取引及びあらゆる形態の暴力及び拷問を撲滅する。

16.3

国家及び国際的なレベルでの法の支配を促進し、すべての人々に司法への平等なアクセスを提供する。

16.4

2030年までに、違法な資金及び武器の取引を大幅に減少させ、奪われた財産の回復及び返還を強化し、あらゆる形態の組織犯罪を根絶する。

16.5

あらゆる形態の汚職や贈賄を大幅に減少させる。

16.6

あらゆるレベルにおいて、有効で説明責任のある透明性の高い公共機関を発展させる。

16.7

あらゆるレベルにおいて、対応的、包摂的、参加型及び代表的な意思決定を確保する。

16.8

グローバル・ガバナンス機関への開発途上国の参加を拡大・強化する。

16.9

2030年までに、すべての人々に出生登録を含む法的な身分証明を提供する。

16.10

国内法規及び国際協定に従い、情報への公共アクセスを確保し、基本的自由を保障する。

16.a

特に開発途上国において、暴力の防止とテロリズム・犯罪の撲滅に関するあらゆるレベルでの能力構築のため、国際協力などを通じて関連国家機関を強化する。

16.b

持続可能な開発のための非差別的な法規及び政策を推進し、実施する。

出典:外務省「SDGs(持続可能な開発目標)17の目標と169のターゲット(外務省仮訳)」

SDGsのポップなアイコンとは一変してターゲットには難解な文章が並ぶため、一気にハードルが高くなりますね。

なぜSDGs目標16が必要なのか?

持続可能な世界を実現するために、また、SDGsのスローガンである「誰一人取り残さない」を実現するためには、世界中の人々が差別や暴力を受けることなく、災害や紛争に苦しむことなく、安全な環境で安心して暮らせること、そして裁判では公正な判断が下される環境が必要です。

しかし、未だこれらの環境が約束されていない国や地域があるのが世界の実情です。

この問題を解決していくためには、SDGs目標16が必要なのです。

ここからはポイントを抑えながら説明していきます。
SDGs目標16を考える上で、初めに理解したいのは「包摂」についてです。

正式な目標の和訳の「持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する」では、2度も「包摂」が使われていますし、SDGs全体でも頻繁に出てくるキーワードです。

この言葉がどのような意味なのかを知ることで、SDGs16が目指すものが見えてくるので、まずは「包摂」の説明から始めましょう。

SDGs目標16のキーワード「包摂」をわかりやすく



包摂の辞書的な意味は「一定の範囲に包み込むこと」です。対義語は「排除」です。

つまり、SDGs目標16の「包摂」は、誰をも排除せずに包み込むことを指しています。

もう少し踏み込んで見てみましょう。

社会学者の宮台真司さんの著書『中学生からの愛の授業/コアマガジン』に「包摂」について記載があります。

【以下引用】
“最後に、「愛」について。「愛」のたいせつな働きは「包摂」にあります。「包摂」とは、のけ者にすること(排除)の反対で、手を差し伸べて仲間にすることです。もはや経済が当てにならない昨今、「包摂」なくして人を「幸せ」にする社会は望めません。 近ごろ「イラッとくる」という言葉が若い子を中心によく使われています。その前は「KY」という言葉が流行りました。日々の生活で「イラッとくる」ことがたくさんあるのは理解できます。むしろ「イラッとくる」ことばかりだと思います。僕だってそうです。 ねたみ、嫉妬、恨み、羨み、いろいろあります。それは仕方ない。でも、だからといって、感情のままに、相手を攻撃して「排除」するようでは、その人自身も「幸せ」にはなれません。「包摂」によって人を「幸せ」にする人だけが「幸せ」になれるのです。”
引用元:MIYADAI.com Blog

これは個人を対象にした内容ですが、社会全体にも共通して言えることです。

これまで排除されてきた人々を保護し、人類が皆幸せに暮らす環境を整えることがSDGsでは求められているのです。
 

包摂的な社会を作ることがSDGs目標16のゴール


SDGs目標16の大まかな概要は、この包摂的な社会を作るために、
・過酷な状況に置かれている人々の保護
・紛争や犯罪の根絶
・司法や制度に平等にアクセスできるようにする
・説明責任の高い仕組み
をつくることです。

しかし、法・制度へのアクセス、説明責任の高い仕組みづくりなど一個人として検討するにはいささか壮大なテーマであり、すべての内容を理解するの困難かもしれません。

そこでここからは、包摂的な社会を築きあげるために押さえて起きたいポイントを3つピックアップして説明します。

SDGs目標16のポイント①紛争の根絶



平和の実現のために避けては通れないのが紛争の根絶です。

紛争とは、国家間の対立である戦争と異なり、それぞれの国内での対立のことで、武装グループが細分化されて争われるようになりました。

例えば、2011年から続いているシリア内戦は、もともとは8つの武装勢力によって対立する構造でしたが、2016年時点では数千の武装勢力にまで膨れ上がり、争いを続けています。

イギリスの研究機関である国際戦略研究所(IISS)は、2016年の紛争による死者数は、全世界で15万7千人にのぼると発表しました。

これは2015年から比べると約1万人ほど減少しましたが、いまだに大勢の人々が亡くなっている状況です。

さらには長引く紛争により、故郷を離れ安全な土地への移動を余儀なくされる難民が増加しています。
 

【2021年最新データ】紛争による難民が増加

国連UNHCR協会によると、2021年時点で避難を余儀なくされた難民の数は約8,930万人にのぼり、その数は年々増加しています。
そして現在、ウクライナをはじめ世界各地で起こっている人道危機により、その数は1億人を超えています。

さらに注目すべきはその約40%が18歳未満の子どもであることで、親や保護者と離れてしまうケースも少なくありません。
1人で見知らぬ土地に避難することで、暴力や性的搾取の対象になるなど新たな問題に直面しています。

SDGs目標16では、そのような暴力を根絶することも掲げています。

そこで次では子どもへの暴力の現状を見ていきましょう。

(参考:国連UNHCR協会「数字で見る難民情勢」,「数字で知る難民・国内避難民の事実」
国連広報センター「紛争と暴力の新時代」,日本経済新聞「世界の紛争犠牲者15万人 16年、死者数減少」,ワールドビジョン「世界の難民危機と子どもたち」)

 

SDGs目標16のポイント②あらゆる暴力の根絶


SDGs目標16では、あらゆる形態の暴力を撲滅することが求められています。

そのなかでも、ここでは子供に対する虐待、搾取、取引の撲滅について考えていきます。
 

搾取とは


搾取とは、児童労働による搾取・性的搾取などに代表される、子供を不当に働かせ、さらにはそれ見合う対価を支払わず、大人が利益を得ることです。

ここでいう児童労働は、
・義務教育を受けるべき15歳未満(途上国では14歳未満)の子どもが、教育を受けさせてもらえずに大人と同じように働くこと
・18歳未満の子どもが危険で有害な仕事に就くこと
といった国際条約で決められた明確な定義があります。

15歳未満の子どもが学校から帰ってきた後に家の手伝いをすることや、15歳を過ぎて学校に通いながらするアルバイトは児童労働の対象ではありません。
 

取引とは


取引とは人身取引のことを指します。

「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する人(特に女性及び児童)の取引を防止し、抑止し及び処罰するための議定書」通称「国際組織犯罪防止条約人身取引議定書」に記載された人身取引の定義を見ると、搾取を目的に、暴力などの手段により特に児童および女性を獲得することとされています。

18歳未満の場合は、暴力などの手段に関係なく獲得されることが取引の対象となります。

人身取引の主な目的は、強制労働や買春、強制結婚、家事労働、 物乞い、武装集団による徴用、臓器摘出が挙げられます。

では、ここで挙げた暴力の現状を世界と日本に分けて見ていきましょう。

世界の現状「子どもへの暴力」



暴力は農業の収穫量や気候変動のようにはっきりとした数値が現れにくい側面があるため、正確な数を把握できません。そのなかでユニセフは2006年に子供への暴力をまとめた「子どもに対する暴力に関する調査」を発表しました。
 

世界で起きている子どもへの「虐待」の現状


毎年推定5億人から15億人の子どもが両親、養父母、親のパートナー、教員、雇用主から身体的な暴力を受けていると書かれています。

総務省統計局が出している「世界の統計」によると、15歳未満の子どもはおよそ19億人(2015年時点)であるので、約8割の子どもがなんらかの虐待を受けていることになるのです。
 

世界で起きている子どもへの「搾取」の現状


搾取に関しては特に数値を把握することが困難です。

原因として、搾取は人目につかないような場所で行われていることや、子どもたち自身がいけないことだと認識できていないケースが多々あり、データを集めにくいことにあります。

そのなかでもユニセフは2009年に「子どもの商業的性的搾取」をまとめており、以下のように記載されています。
 
“性的虐待と性的搾取に関する統計は、大まかな推定であり扱いには注意すべきであるが、18歳未満の1億5,000万人の女の子と7300万人の男の子が、強制的な性交あるいは身体的な接触を含む様々な形態の性的暴力と性的搾取の被害者になっていると推定されている。2000年には、推定180万人の子どもたちが、買春やポルノグラフィーによって性的に搾取されていたと推定されている。毎年、約100万人の子どもたちが商業的性的搾取の新たな被害者となっていると見られている。”
引用元:ユニセフ「ユニセフの主な活動分野|子どもの保護」
 

世界で起きている子どもの「取引」の現状


取引も虐待と搾取同様に、集められたデータは正確な数値ではないと考えられているため、慎重に取り扱わなければなりません。

ワールド・ビジョンによると、2016年時点で子どもから大人までの人身取引の対象は世界でおよそ4,030万人にのぼると推定されており、その約半分がアジア地域に集中しています。

そしてこの4,030万人のなかの約25%が子どもであると言われているのです。

この数値は氷山の一角であり、実際にはさらに多くの人々が被害にあっていると見られています。

(参考:児童労働ネットワーク「児童労働とは」,ACE「児童労働とは」,警察庁「人身取引(性的サービスや労働の強要等)対策」)

日本の現状「子どもへの暴力」

これらの暴力は世界に限ったことではなく、日本でも起きています。
 

日本で起きている子どもへの「虐待」の現状


日本での虐待の定義は、
①身体的虐待・・・殴る、蹴る、叩く、投げ落とす、激しく揺さぶる、やけどを負わせる、溺れさせるなど
②性的虐待・・・子どもへの性的行為、性的行為を見せる、ポルノグラフィの被写体にするなど
③ネグレクト・・・家に閉じ込める、食事を与えない、ひどく不潔にする、自動車の中に放置する、重い病気になっても病院に連れて行かないなど
④心理的虐待・・・言葉による脅し、無視、きょうだい間での差別的扱い、子供の目の前で家族に対して暴力をふるう(DV)など
です。

これは、児童相談所への相談件数で見ることができます。


出典:厚生労働省

このグラフを見てわかるように、年々児童相談所への相談件数は増加傾向にあります。

背景には、a.心理的虐待の増加、b児童虐待への関心の高まりが挙げられるようです。

a.心理的虐待への増加

心理的虐待の増加の要因として、近年、子どもの目の前で親がその配偶者に暴力を振るう面前DVが増えたことが考えられます。

父親が母親を殴ったり罵声を浴びせたりするショックな光景を目の当たりにすることで、子どもはそれを思い出し、夜中急に目を覚ましてしまうなどの心理的ダーメージを負ってしまうのです。

b.児童虐待への関心の高まり

児童虐待への関心の高まりも関係があります。

我々は、虐待を受けた子どもをみつけたら児童相談所へ報告しなければならない義務があります。

しかしこれまでは、近所の子どもがいつも汚れた服を着せられていたり、暴力を受けているような痕を確認してもそれが虐待にあたるのか判断ができずに見過ごすケースが多々ありました。

そこで2004年に法が改正され、「虐待を受けた子ども」から「虐待を受けたと思われる子ども」に対象が広がった事で児童相談所への通報もしやすくなったのです。
 

日本で起きている子どもへの「搾取」「取引」の現状


日本では、児童労働による搾取、性的搾取をするために人身取引された人数を報告しています。

首相官邸から発表された、「人身取引対策に関する取組について(令和元年 年次報告)」によると、2018年に日本で保護された人身取引者は27人いました。

内訳は日本人女性→17人日本人男性→1人外国人女性→9人となっており、このうちの5人が18歳未満(男性含む)で、主に売春・性風俗・労働搾取・ホステスで働かせられていました。

保護された方々以外にも、海外同様明るみに出ていない人身取引は発生しているとのことで、対策を急がなくてはなりません。

ここまで見てきた暴力に関する問題を解決しなければSDGs目標16の達成は不可能ですが、解決の鍵を握るのは「出生登録」です。

(参考:厚生労働省「児童虐待の定義と現状」,朝日新聞デジタル「児童虐待、件数増加の背景は?」,平成3 0年5月18日人身取引対策推進会議「人身取引対策に関する取組について 年次報告」)

暴力の解決策として重要な「出生登録」



出生登録とは、子どもの国籍と存在を公式に認めるもので、日本では子どもが産まれると当たり前のように出生届を提出しています。

しかし世界には出生登録がされず、公式に認められていない5歳未満の子どもが2019年時点でおよそ1億6,600万人(全世界の5歳未満の4人に1人)おり、特に途上国では50%程度しか出生登録がされていません。

出生登録がされていないと、国家の目には映らない存在となり、保護したくてもできない状況が生まれてしまいます。

また、ユニセフによると、公的な出生証明がある子どもは出生登録がされていない子どもに比べて搾取や取引がされにくいという現状があるとのことです。

今後、すべての子どもが出生登録されるよう、保健システムや社会サービスの整備が求められています。

(参考:ユニセフ「出生登録 法的に存在しない子ども、1億6,600万人5歳未満の4人に1人に相当サハラ以南アフリカ、最低水準」)

LGBTQへの差別も暴力につながる問題

虐待や搾取など、直接的な暴力だけでなく、精神的な暴力につながる問題も山積しています。
中でも、未だ根強く残っているのが男女不平等の問題です。近年では「LGBTQ」と呼ばれる性的少数者(マイノリティ)への偏見や差別にも注目が集まっています。

世界経済フォーラムによる2021年発表の「世界ジェンダー・ギャップ報告書」によると、日本のジェンダーギャップ指数は156か国中120位で、男女の格差が他国に比べても大きいことがわかります。
またこの数値は前回発表の2019年(153か国中121位)と比べてもほぼ横ばいの結果で、長年問題視されているのになかなか解決に向けた前進が見られていないとも言えます。
同報告書では、日本では政治やキャリアなどあらゆる場面で女性の立場が弱い、と指摘されています。


世界的にも注目を集める「LGBTQ」ですが、実はSDGsの目標の中には直接言及されていません。
それは、宗教上の理由から同性愛を禁止にしていたり、法律で取り締まっている国があるためです。
SDGsは国連の全加盟国に課せられた目標のため、各国の状況を考慮し明記されていないという背景があります。
とはいえ、誰一人取り残さないことを目指すSDGsは、LGBTQへの配慮も大切です。
平和と公正を目指すSDGs16達成に取り組んでいく上で、私たち一人ひとりの意識から性的少数者「LGBTQ」に対する差別や偏見をなくしていく必要がありますね。

>>ジェンダー平等についてさらに詳しく知りたい方はこちらの記事をご参照ください
SDGs目標5「ジェンダー平等を実現しよう」とは|SDGsに取り組む企業担当者のインタビューも

ここまで暴力の現状について見てきました。

続いては、犯罪についての状況を見ていきましょう。

SDGs目標16のポイント③あらゆる犯罪の根絶



SDGs目標16では、あらゆる形態の犯罪を根絶することも掲げられています。

現在、殺人による死者数は先述した武力紛争による死者数を上回っています。

国連広報センターによると、2017年に殺人により命を落とした人数は全世界で約50万人にのぼりますが、これは武力紛争とテロ攻撃による死者の合計が約11万人だったことを考えると問題の大きさがわかります。

また、殺人だけではなく、賄賂や詐欺などの犯罪への対応も必要です。ここでは賄賂・詐欺などの犯罪についての現状をまとめました。
 

世界の犯罪の現状「賄賂」


公務員や政治家の賄賂などの汚職は「腐敗」と呼ばれ、この現状は各国の腐敗認識指数で確認できます。

腐敗認識指数とは、本部をドイツに置くトランスペアレンシー・インターナショナルが調査して毎年報告しているもので、公務員と政治家がどれだけ汚職に手を染めているかがわかる指数です。

これは信頼する複数の機関が調査した結果を0から100で数値化し、100に近いほど汚職が行われていない清潔な国であることがわかるランキングです。

180ヶ国を対象にランキングが出されており、2019年は1位がデンマークとニュージーランドでした。
 
【2019年腐敗認識指数ランキング】
1位 デンマーク 87.00ポイント
1位 ニュージーランド 87.00ポイント
3位 フィンランド 86.00ポイント


20位 日本 73.00ポイント


178位 シリア 13.00ポイント
179位 南スーダン 12.00ポイント
180位 ソマリア 9.00ポイント

ではなぜこの腐敗認識指数が重要なのでしょうか。

国際通貨基金によると、これまでに腐敗を改善した国々のデータをもとに、現在腐敗が続いている国が同様に改善したと仮定すると、世界の税収は1兆ドルほど伸びると考えられているからです。

低所得の国では教育や医療に予算がまわされていない

腐敗が及ぼす悪影響を具体的に見ていきましょう。

ある低所得国では、賄賂により道路建設や病院建設などの事業に多大な金額が流れており、教育や医療に充てられる予算は他の低所得国と比較して3分の1程度です。

このような状況では児童の学力は伸びにくく、テスト結果も他の国々の同年代の子どもより劣るというデータもあります。十分な教育を受けられないことは、先述した虐待、性的搾取、人身取引を引き起こす原因の1つになるのです。
 

虐待・性的搾取・人身取引は教育を受けられないことが原因の1つ

ユニセフが2009年に発刊した「子どもたちのための前進」によると、最貧困層の家庭出身の女性、または正規の教育を受けていない女性は、夫からの暴力を正当化する傾向があると報告しています。

教育を受けなかった親は、子どもを学校に行かせることが無意味であると考える傾向にあります。

これにより子供は教育を受けられずに働かされ、児童労働や性的搾取のきっかけとなってしまうのです。

そしてその子どもが親になったときに、また同じことが繰り返されてしまいます。

他にも腐敗が原因で紛争が始まったり、同じ国内でも貧富の差が広がったりと様々な弊害をもたらすため、誰ひとり取り残さない世界を作るには、腐敗の改善が必要不可欠です。

(参考:ユニセフ「子どもたちのための前進」,GLOBAL NOTE「腐敗認識指数 国別ランキング・推移」,国際通貨基金「腐敗を抑制する」)
 

日本の犯罪の現状「特殊詐欺」


日本でも賄賂などのニュースを目にすることがありますが、低所得国ほど直接的な生活への影響を感じることは少ないのではないでしょうか。

SDGsを「自分ゴト化」するためには、より身近な犯罪とSDGs目標16との関係を知ることが大切です。

そこでここではより身近な犯罪の例を見ていきましょう。
 

特殊詐欺を根絶しなければならない

SDGs目標16で我々に関連してくる犯罪としては、振り込め詐欺などの特殊詐欺が挙げられます。

特殊詐欺によって奪われたお金は、暴力団などの組織に流れていると考えられています。

そのことで彼らの活動を促進してしまい、人身取引による搾取を助長してしまうと考えられているのです。

警察庁によれば、2014年をピークに年々被害額は減少傾向にあるものの、依然として年間300億円を超えています。
 
【特殊詐欺の認知件数・被害額の推移】

出典:警察庁「令和元年における特殊詐欺認知・検挙状況等について(確定値版)」

2020年1月から6月までの数値は以下の通りです。

出典:警察庁ウェブサイト

特殊詐欺の被害者は、83.7%が65歳以上の高齢者です。

盗られたお金を全額取り返すのは難しいようで、老後の貯蓄が減ってしまい貧困を招くことも考えられます。

これらの特殊詐欺は、両親や祖父母と密にコミュニケーションをとることで防げる確率があがると考えられているため、意識して会話を増やすことが大切です。

(参考:捜査第二課 生活安全企画課),警察庁・SOS47 特殊詐欺対策ページ「特殊詐欺発生状況」)

 

 

SDGs16「平和と公正をすべての人に」の達成に向けた世界の取り組み

ここからは、SDGs16を達成させるための世界の取り組みをご紹介します。
 

ネウボラ(フィンランド):子どもを虐待から守る

ネウボラとは、妊娠期から就学前までの間、担当の保健師が子育てに関するさまざまな問題にワンストップで対応する仕組みのことです。
誰でも無料で利用できることから、フィンランドではほぼ100%の妊婦がこのサービスを利用していると言われています。

ネウボラの取り組みが子ども虐待のセーフティーネットとなり、虐待率が減少しているという統計も出ているほどです。虐待が減ることで予算との費用対効果が高まっていることから、ネウボラの取り組みは世界から注目されています。

 

SDGs16「平和と公正をすべての人に」の達成に向けた日本の企業の取り組み

SDGs16を達成させるために日本の企業はどのような取り組みを進めているのでしょうか。
 

株式会社ピー・エス・インターナショナル|リヴィングウェイジで児童労働問題の解決を目指す




株式会社ピー・エス・インターナショナルが扱う固形シャンプーバーのエティークは、市場で販売されているビューティープロダクツが環境に与える問題に着目し、ニュージーランドで設立されました。

エティークは、児童労働によって作られた原材料は一切使用せず、リヴィングウェイジであることを条件として作られています。

リヴィングウェイジとは、労働者が最低限の生活を営むために、機関によって算出された必要賃金のことを指します。

不当に搾取されていない原材料を利用することは、児童労働の不当な搾取商品の需要を減らし、根絶することが期待されるのです。
 

◆エティークのその他の特徴

年間800億本廃棄されるシャンプーとコンディショナーのプラスティックボトルは、たったの9%しかリサイクルされていません。

そこで容器のない固形バー(髪や頭皮に必要な美容液成分と、必要最小限の洗浄成分を凝縮したシャンプー・コンディショナー)を作り、2019年までの7年間で600万本のプラスティックボトルの削減を実現しました。

さらに2025年までに5,000万本削減を目標にしています。
 

◆パッケージも環境に優しい

すべてのパッケージは生分解性(微生物によって分解される物質のこと)によるもので作っており、土に還ります。

なおかつインクも植物からとれるベジタブルインクを使用しているため、例えば開けたパッケージに土とタネを入れて、植物を育てることもできるのです。

一定の大きさに植物が育ったあとは、庭にパッケージごと埋められるのでゴミの削減につながります。

 

SDGs16「平和と公正をすべての人に」の達成に向けて私たちができること

では、私たちができることはあるのでしょうか。

SDGs目標16の内容はここまで見てきたように、国家間の努力が重要となるため、個人でできることは主に団体へ寄付する方法でしょう。

そこで最後に寄付を受け付けている団体を紹介します。
 

国際協力NGOワールド・ビジョンへの寄付


ワールド・ビジョンは、キリスト教精神に基づいて開発援助・緊急人道支援・アドボカシー(市民社会や政府への働きかけ)を行う国際協力NGOで、困難な状況にある世界の子どもたちのために活動しています。

様々なケースに応じた寄付を受け付けていますが、そのなかに難民支援部門もあり、寄付金は、
・紛争で傷ついた子どもたちの心のケアや個別に必要な物資提供など
・補習授業により学習の遅れを取り戻し、学び続けられる環境作り
などに使われているようです。

興味のある方は国際協力NGOワールド・ビジョンのサイトをご覧ください。

>>ワールド・ビジョンのHPはこちらから

包摂的な社会を目指して、すべての人が平和に暮らせるようにまずは現状を知ろう

本記事ではSDGs16「平和と公正をすべての人に」のポイントを説明してきました。

一度読んだだけでは難しいかと思いますし、我々の生活からは想像のできないことが起きており、個人で解決に向けた行動を起こすことは難しいかもしれません。

しかし、1人でも多くの方が排除されている人々がいる現状を知ることが、目標を達成するためには必要不可欠です。

包摂的な社会を目指して、この機会に世界の現状を詳しく調べてみてはいかがでしょうか。

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SDGs12「つくる責任 つかう責任」とは?現状や取り組み事例・私たちにできること
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