SDGs14「海の豊かさを守ろう」で取り上げられている海洋プラスチックゴミ問題。現在、海には大量のプラスチックゴミが漂い、海洋生物の体に絡まり命を落としたり、誤って食べてしまったりと、さまざまな悪影響を及ぼしています。
また、このまま何も対策とらなければ、2050年にはプラスチックゴミが魚の重量を上回るかもしれません。
海も海洋生物も人間も持続可能なものにするために、わたしたちにできることはないのでしょうか。
今回、海の豊かさを守るために新宿区を中心にゴミ拾い活動を続ける早稲田大学の人材育成サークル「ワセカープ」さんに話を聞いてきました。これから何か取り組みを始めたい!と考えている方のヒントになる情報がたくさんあったので参考にしていただければ幸いです。
とはいえ、海のゴミと街中のゴミ拾いにどういった関係があるの?と疑問に思う方も多いと思います。
そこでまずは簡単に今、海に何が起きているのかを見ていきましょう。
プラスチックゴミがあふれかえっている
わたしたちはこれまで、生活を豊かなものにするために発展を続けてきました。プラスチックもそのなかの発明の1つと言えるでしょう。
便利なプラスチックはわたしたちの生活にまたたく間に浸透。また、安価で軽い特徴があるため、きれいで清潔な飲み水を長期間保管できたり、食品を安全に包装することも可能です。
このことで貧困地域や被災地地域への支援がしやすくなりました。
このように、プラスチックは生活に欠かせないものとなりましたが、需要の高まりと共にプラスチックゴミも増加。その結果、海にも大量にゴミが漂うようになりました。
生物も人間もプラスチックを食べている
海を漂うプラスチックゴミは海洋生物に深刻なダメージを与えます。
ビニール袋やナイロン紐が体に絡まり、身動きが取れなくなってしまう海鳥。鼻にプラスチックストローが刺さり、苦しむウミガメ。このような映像を目にしたことがある方も多いと思います。
さらには、細かく砕けたプラスチックは小型の魚が食べてしまい、体内に蓄積。
これは魚にとって悪影響であることは想像がつきますが、プラスチックを蓄積した魚が水揚げされ市場に出回れば、人間も口にする可能性があるのです。
海洋プラスチックゴミは街からやってくる
では、海洋生物にも人間にも悪影響を及ぼすプラスチックゴミは、どこからやってくるのでしょうか。
「海洋ゴミ」というだけあって、なんとなく海で遊ぶ人たちや漁業関係者が捨てているイメージがあるかもしれません。
しかし、実はそのほとんどが街中からやってきます。
ポイ捨てされた街中のゴミが風や雨によって側溝に飛ばされ、その後、川に流出してやがては海にたどり着くのです。つまり海の豊かさを守るためには、街中のゴミ問題を解決しなければならないのです。
ゴミを捨てないことはもちろん、ゴミ拾いも持続可能には欠かせない行動になります。
そこで、普段からゴミ拾い活動をしている早稲田大学の人材育成サークル「ワセカープ」さんに、ゴミへの思いやゴミ拾いを継続するポイントなどを聞いてきました。
早稲田大学 人材育成サークル ワセカープ
早稲田生を中心に約40名が活動しているインカレサークル。
“ために生きる“利他の精神と“私が変われば世界が変わる”をサークルのモットーに新宿区を中心としたゴミ拾い、定期的なSDGs勉強会などを開催。
その活動が評価され、2020年に行われた全国各地の社会的価値のある活動をしている学生団体や、特色のある活動をしているサークル・部活動を表彰する第6回学生団体総選挙の部活動・ゼミ・サークル部門のファイナリストに選出。
早稲田生を中心に約40名が活動しているインカレサークル。
“ために生きる“利他の精神と“私が変われば世界が変わる”をサークルのモットーに新宿区を中心としたゴミ拾い、定期的なSDGs勉強会などを開催。
その活動が評価され、2020年に行われた全国各地の社会的価値のある活動をしている学生団体や、特色のある活動をしているサークル・部活動を表彰する第6回学生団体総選挙の部活動・ゼミ・サークル部門のファイナリストに選出。
【前編】人材育成サークル ワセカープ
ここからはインタビュー形式で紹介します。今回話を伺ったのは、ワセカープの村枝蓮也さんです。
村枝さんは早稲田大学法学部の4年生。約40名いるワセカープの代表を務めています。
地域のためになる活動をしたい!がきっかけ
---まずはサークルの活動内容を教えてください。
村枝 “ために生きる“利他の精神と“私が変われば世界が変わる”というインサイド・アウトをモットーに、SDGsに関する定例研究会や、わせまちPJ、政策提言、国際交流イベントの企画などの活動を行っています。
ゴミ拾いはそのなかのわせまちPJになります。
---わせまちPJとはどのようなプロジェクトなんですか?
村枝 元々は「高田馬場清掃PJ」という名称で、主に高田馬場駅周辺を清掃していました。
高田馬場駅は早稲田生の多くが利用する、早稲田を象徴するような駅です。しかし毎日多くの大学生が汚している悲しい現状があります。
この現状に心を痛め、「早稲田生から高田馬場を日本一綺麗な街にしたい!」という情熱を持って、このプロジェクトが始まりました。「わせまち」という名前もそこから来ています。
---いつ頃から始まったんですか?
村枝 僕が大学1年生の2018年5月からスタートしました。
「サークルとして地域全体のためになることをやりたいね。」というところから始まり、みんなで何ができるか考えた結果、高田馬場駅、特にロータリー周りが悲惨な状況だったのでみんなで清掃しよう!となったのがきっかけです。
そこから毎週土曜日にみんなで集まってゴミを拾いだしました。
---今も毎週土曜日に活動しているんですか?
村枝 ゴミの量が多くて週1回じゃ間に合わないねと話が上がって、2019年10月から毎日の活動に変更しました。
これは全員が毎日というわけではなく、通学路を中心にそれぞれができるときにゴミを拾ってオンライン上で集計する形式です。
週一の高田馬場清掃も「出張!わせまちPJ」と名称を改めて土曜日に集まって継続していましたが、2020年3月からはコロナ禍で集まることができなくなったため、今は集まらずに個人単位のみの活動となっています。
そのため高田馬場だけではなく、自宅周りで拾っている人もいますね。ただ、それだけでは味気ない。
コロナ禍前のようにみんなで拾う雰囲気が好きだったメンバーもいるので、通話しながら活動したり、みんなで目標を立てたりと楽しく続けられる工夫をそれぞれが考えています。
---それだけ活動していたらゴミの量もかなりのものになると思います。集まったゴミはどう処理しているんですか?
村枝 自宅近辺で行っている人は、分別して普段のゴミ出しと同じように処理しています。
高田馬場で行っている人たちは、新宿区の清掃員の方に許可をいただいて、そちらで回収していただいています。
分別はもちろん、ゴミを拾ってからの処分にも責任を持たないとかえって迷惑になってしまうこともあるので気をつけているところです。
一番多いのはタバコのポイ捨て
---ゴミ拾いについて踏み込んで聞かせてください。ポイ捨てされているのはどんなゴミが多いですか?
村枝 ペットボトル・缶・プラごみなどもたくさんありますが、ダントツで多いのがタバコのポイ捨てです。
回収したゴミを集計しているのですが、2019年10月から2021年5月までで吸殻は41,000本以上拾っています。
---やはり駅前のロータリーにタバコは捨てられているのでしょうか?
村枝 お酒に酔った勢いでポイ捨てするケースも多いと思いますが、特に目立つのはコインパーキングですね。最近タバコが吸えるスポットが少なくなっていることもあって、目立たないコインパーキングで吸ってそのまま捨てているんだと思います。
---タバコ以外にもゴミが落ちている場所が多いポイントはありますか?
村枝 植え込みの奥のほうはゴミがよくみつかりますね。やっぱり捨ててる人も「悪い」という意識があるのか、見えないところに隠すんです(笑)
これだけの期間ゴミ拾いを続けているので、メンバーはゴミが落ちているポイントもだいたい把握しています。「あ、やっぱりここにあった!」なんて笑いながら拾っていますよ。
---捨てるのは大学生が多いのでしょうか?
村枝 うーん、どうでしょう。先程のコインパーキングにもあるように、社会人の方でも平気で捨てるので一概には言えませんが、学生の街だけあって大学生は確かに多いかもしれませんね。
ただ、テレビでよく「早稲田生がポイ捨てしてる!」なんてニュースを見ますが、全員が早稲田生というわけではないです。高田馬場って学校が多いので、色々な大学や専門学校生も捨てていると思いますね。
ポイ捨てされたタバコの本数、とてつもないですね。
タバコもフィルターがプラスチックです。
高田馬場には近くに神田川が流れています。ポイ捨てされたタバコは側溝から神田川へ。神田川から隅田川へ。隅田川から東京湾へ流れ着くことになります。
ワセカープさんがゴミ拾い活動をしていなかったと考えるとゾッとしますね。続いては、ゴミ拾いを通して感じたことや思いを伺っていきましょう。
地域の方や企業から声をかけてもらうように
---わせまちPJの反響はありますか?
村枝 特に集まっての清掃活動においては地域の方から「いつもありがとう」「本当に助かってるよ」と声をかけていただく機会が増えました。
時にはジュースやお菓子もいただいたりもします。こうやって声をかけていただくことは、やりがいにつながりますね。
自分たちの活動が地域に恩返しできてるんだな、と実感できるタイミングでもあります。
あとは、企業からもお声がけいただくことがありますね。
---具体的には?
村枝 自分たちの活動に共感していただき、ゴミ拾いグッズや協賛金などをご提供いただけたりします。これまでサークル費やメンバー負担でトングやゴミ袋を揃えていたので、非常に助かりました。
---ここまでお話を聞かせていただいて、楽しみながらゴミ拾いをされている印象があります。とはいえポイ捨てされたゴミに対して怒りもあるんじゃないですか?
村枝 怒りというよりは悲しさのほうが強いです。
確かにゴミを拾うこと自体は楽しいんです。ただ、自分は釣りが好きなこともあって、このゴミが海に流れて環境が汚されていくのか…と考えると、ただただ悲しいですね。
そして今の子どもたちや、その次の世代が汚れた海しか知らなくなることへの不安もあります。
その一方で捨てている人たちって、ポイ捨てがそこまで大きな問題に発展するなんて知らないんだと思います。知らないから捨ててしまう。
だからこそわせまちPJを継続することで、街のゴミが海の環境を汚している、環境にダメージを与えているということを、ポイ捨てする人が知るきっかけになってくれればいいなと考えています。
ゴミを拾える人を増やしたい
---ポイ捨ては環境に与える影響を知ることで減る?
村枝 そうですね。ただ、これはすぐには変えられないことだとも思っています。
もちろんゴールは誰もゴミを捨てない社会です。でも現実的に捨てる側の意識を改善させるのってすごく難しい。
自分は法学部なので、刑法でガチガチに縛ればいいのでは?と考えたこともありますが(笑)それって本質的な解決にはなりません。
強制されたとしても、バレなきゃいいやと人目につかないところに捨てる人も絶対いると思うんですよね。
そこで自分たちは「ポイ捨てする人を減らす」より、まずは「ゴミを拾える人を増やす」ことを目標にしています。ゴミ拾いを通して感じたのが、人は汚い場所だと「あ、ここは汚れてるから捨ててもいいか」となりやすいということです。
だから同じような場所にゴミも溜まる。
これがゴミが落ちていないきれいな場所が増えれば、みんな捨てにくくなるんじゃないかなと。
「ゴミを捨てるな!」と言い続けることも大切ですが、それよりも誰でもゴミを拾いやすい環境をどんどん整えていくことで良い方向に向かいそうな気がしています。
---ワセカープさんのような活動がどんどん広がればいいですよね。
村枝 そうですね。大学生って特殊な立場だと思うんです。大人として社会に対しても発信できるし、学生として中高生にも影響を与えられる。
学生が情熱を持った活動をしていれば、社会に対して「学生が頑張っているから自分たちも何か始めなきゃ」と感じてもらうことができます。
中高生は、お酒を飲んで大暴れする大学生特集!みたいなニュースを見て悪いイメージを持っている子も多いので、それを払拭したいんです。大学生になればいろいろなことが学べて、みずから行動を起こせるんだよと。
そのためにも、もっともっとみんなで頑張って街をきれいにして、他にも何かできないかを模索していきたいです。
その結果、環境問題の解決に向けた活動が全国で広がっていけばうれしいですね。
とはいえ、自分たちだけの力では実現が難しいなと感じているのも事実です。
---というと?
村枝 最近はSDGsについて考えているサークルや環境問題を考えるサークルと連携するなど、横のつながりも増えてきました。
でも、もともとそういう問題に興味のある人が在籍しているので、ゴミ拾いなどの活動もすでにしているんですよね。もちろんそれはいいことなんですが(笑)
これから必要なのは、例えばスポーツサークルやイベントサークルのような他ジャンルとの交流を深めていくことだと考えています。
もしかすると「ゴミ拾いに抵抗がある」「環境問題を考える機会がない」人たちが結構いるかもしれないですし。
彼らと一緒にゴミ広い活動ができれば、予想以上にゴミが落ちていることに気付いてもらえて、環境について考える良い機会になると思うんです。
これがきっかけでゴミ拾いへのハードルも下がるんじゃないかなと。
SDGs17「パートナーシップで目標を達成しよう」にあるように、ジャンルの枠を超えて色々な人を巻き込んで協力することで活動の幅が広がり、さらに多くの方々にこの活動を知ってもらえるのでは?と考えています。
エシカミー編集部では取材前、「ゴミを捨てる人を減らすにはどうすればいいのか」という点について、ワセカープさんがどのような考えをお持ちなのかに興味があったんです。
しかし、ワセカープさんは「ゴミを捨てる人を減らす」ではなく、「ゴミを拾える人を増やす」と考えており、ハッとさせられました。
確かに捨てる人を減らすのは受け身の考え方のように思えます。それに対して拾える人を増やすことは、自分が主体的に起こせる行動です。
私たちもこれから積極的にゴミ拾いを行い、周りを巻き込めるようにしていこう、と考えが改められました。
後編では、村枝さんがワセカープに入ったきっかけやゴミ拾い活動を継続するためのポイントなどを聞いてきましたので、ぜひ目を通してみてくださいね!
>>後編はこちらから