SDGsという言葉が定着してきた昨今、
地球環境や社会問題を解決するために身近なところから取り組みを始めたい
持続可能な社会を目指すためには何をすべきなのか?
このような興味や関心を持つ方も多いのではないでしょうか?
今、私たちでもできる取り組みとして注目されているのが「エシカルファッション」です。
この記事ではエシカルファッションについて、どのような取り組みを指すのか、その目的や意義、エシカルファッションを選ぶ方法について紹介していきます。
まずはエシカルファッションの定義を確認していきましょう!
エシカルファッションとは
エシカルファッションとは、人と地球に配慮したファッションのことです。
エシカルという言葉は、「倫理的」「道徳的」という意味を持ちます。
環境問題だけでなく、労働問題や社会問題にも配慮したうえで素材を選び、生産し、販売までを行っているファッションを「エシカルファッション」と呼ぶのです。
では、エシカルファッションという考え方はどのようにして生まれたのでしょうか?
労働者の人権や環境問題解決のきっかけとなる「エシカルファッション」
近年、最新の流行を取り入れながら低価格の衣料品を販売する、いわゆる「ファストファッション」が台頭しています。
消費者にはメリットの多いものですが、その裏に開発途上国の労働者の犠牲がありました。この問題を広く世に知らしめるきっかけになったのが、2013年にバングラディシュで起きた「ラナ・プラザ崩落事故」です。
エシカルファッションへの関心が高まるきっかけとなったバングラディシュのラナ・プラザ崩落事故
バングラディシュは、1日2ドル未満で暮らす貧困層が国民の7割以上を占めるアジア最貧国です。
そのため人件費が安く、世界の主要な衣料品メーカーの縫製工場が数多く稼働しています。
生産性を高めたが故に起きた事故
事故が起きた8階建ての商業ビル「ラナ・プラザ」にも、世界中のファッションブランドの縫製工場が複数入っており、当時4,000人ほどの従業員が働いていました。
そんな中、2013年に崩落事故が発生。原因は、違法な増築とずさんな安全管理でした。
欧米企業からの需要が高まるにつれ、生産量を上げるために違法な増築を繰り返し建物の強度が弱くなっていました。そこに大勢の従業員をすし詰め状態で働かせていたのです。
事故前日にはビル全体に亀裂が発見されていましたが、従業員の避難は許されず、業務を続けた結果、多くの人の命が失われたのです。
◆エシカルファッションへの取り組みが必要不可欠
その結果、「倫理的な」ファッションを買いたい、着たいという考え方が広まり、ファッション業界もエシカルファッションに取り組むことが不可欠となってきたのです。
エシカルファッションの条件とは
実は、エシカルファッションの認定基準はまだ存在していません。しかし、2006年に設立されたEthical Fashion Forumや、日本のエシカルファッション推進団体であるEthical Fashion Japanは、エシカルファッションの条件を提案しています。
まずはEthical Fashion Forumの条件を確認していきましょう。
Ethical Fashion Forumによる条件
1.環境保護
①エネルギーと水の効率
製造過程におけるエネルギーや水の使用を効率的にし、環境汚染を少なくする。
②化学物質管理
農薬などの有害化学物質の使用を管理し、削減する。
③汚染削減
サプライチェーンにおける空気や土地、水の汚染を減らす取り組みを行っている。
2.リサイクルと廃棄物
リサイクルやアップサイクル、循環アプローチを用いて、製造過程や商品から発生する廃棄物の削減に取り組んでいる。
3.環境にやさしい素材
①有機材料(オーガニック)の使用
②その他の環境にやさしい素材(オーガニックを除く)
オーガニック素材以外の、環境に優しい素材(麻、イラクサなど)を使用、開発している。
4.公正な取引(フェアトレード)
取引を公平にするためにもフェアトレードのFINE定義に則り、生産者と労働者の権利を確保する。
5.まともな労働条件
事業にかかわる全労働者の労働条件が守られている。
6.伝統的な技術への支援
伝統的な技術と職人を支援し、地域産業を維持・促進する。
7.倫理的ソーシングとサプライチェーンマネジメント
労働者や環境への悪影響を抑えるため、適切に商品の購入と取引を行う。
8.アニマルフレンドリー
動物の権利を守るためにも動物由来の素材の使用(または一部使用)を避けている。
Ethical Fashion Japanによる条件
1.FEIR TRADE(フェアトレード)対等な取引で不当な労働や搾取をなくすため、認証を受けたフェアトレードや十分な生活賃金、適切な労働環境を確保して清算されていること。
2.ORGANIC(オーガニック)
有機栽培で生産された素材を使っていること。
3.UPCYCLE&RECLAIM(アップサイクル&リクレイム)
捨てられるはずだったものを活用して作られていること。
デッドストックの素材や在庫商品も回収して利用すること。
4.SUSTAINABLE MATERIAL(サスティナブルマテリアル)
環境負荷がより低い素材を活用すること。
5.CRAFTSMANSHIP(クラフトマンシップ)
伝統的な技術を取り入れ、文化も伝えて未来へ伝える取り組みのこと。
6.LOCAL MADE(ローカルメイド)
地域に根差したものづくりで、地域産業や産地を活性化させて雇用を創出し、技術の伝承と向上を目指すこと。
7.ANIMAL-FRIENDLY(アニマルフレンドリー)
動物の権利や動物の福祉に配慮すること。
8.WASTE-LESS(ウェイストレス)
ライフサイクル各段階の無駄を削減すること。
9.SOCIAL PROJECTS(ソーシャルプロジェクト)
NPOやNGOへの寄付やビジネスモデルを活かした支援、雇用創出など社会貢献に対する取り組みのこと。
できることから取り組む
これらの条件の中で、それぞれのブランドや企業が自分たちで行うことができるものに取り組みながら、エシカルファッションを実現させようとしています。
オーガニックやフェアトレードはそれぞれ認証機関がありますが、エシカルファッションには認証機関がありません。
そのため、エシカルファッションを謳うブランドを選ぶ際は、どのような基準、どのような考え方で取り組んでいるのかについて、自分自身でよくチェックする必要があるのです。
エシカルファッションの広がり
エシカルファッションの意義に注目が集まる中、今後どのようにエシカルファッションが広がっていくのでしょうか。
エシカル・ファッション・イニシアティブ(EFI)
エシカル・ファッション・イニシアティブ(EFI)とは、世界貿易機関と国際連盟の合同機関である国際貿易センターが発足したプロジェクトです。
「Not Charity, Just Work(チャリティではなく、仕事として)」をスローガンに活動しており、ハイチ、アフリカ、中央アジアの恵まれない地域の人々が正当な賃金が受け取れる雇用を創出し、貧困の撲滅を目指します。
主な取り組みとしては、職人のライフスタイルを尊重しつつ、生活環境を改善し、技術を訓練していくことです。
将来的には職人が独立したり、起業出来るように支援していくことまで考えられています。
◆生産後の生活環境の調査も行う
このプロジェクトは生産して終わりではなく、その後、職人の生活環境がどう変わったかという社会調査も行っています。
この調査結果では、公平な労働基準を満たした雇用をもたらしたことで、生活環境が向上していることが判明しています。エシカル・ファッション・イニシアティブ(EFT)に参加しているブランドは、ヴィヴィアンウェストウッド、ステラマッカートニー、ユナイテッドアローズなど有名ブランドが数多くあり、様々なアイテムを発売しています。
ETHICAL FASHION JAPAN(EFJ)
日本でエシカルファッションを推進しているのが、「ETHICAL FASHION JAPAN(EFJ)」です。
「これからのエシカルは“当たり前”である」ことをテーマに、国内外でエシカルファッションに取り組んでいるブランド情報を発信していました。
現在は活動を終了し「一般社団法人unisteps」として、エシカルファッションの普及に努めています。
エシカルファッションについて学べるオンライン講座やイベントも開催しているので、興味がある方はぜひチェックしてみてください。
エシカルファッションが解決する課題
ここまでエシカルファッションを広めるために行われている国際機関や日本国内の団体の取り組みを見てきました。
ではなぜエシカルファッションの考え方を広めることが大切なのでしょうか。エシカルファッションを広めることで解決できる課題を見ていきましょう。
衣服の素材に用いられる農薬・殺虫剤
ファッション業界が抱える課題の1つに、衣服の素材を育てる上で使われている大量の農薬や殺虫剤を減少することが挙げられます。
例えばコットン素材の原料となる綿花の栽培では、殺虫剤は世界の農業全体の15.7%、落葉剤・除草剤などの農薬全体を含めると6.8%もの量を使用しています。
これらの農薬の使用は、地球環境を悪化させるだけでなく、綿花栽培に関わる人々の健康を害します。
この課題に対してエシカルファッションは、農薬や殺虫剤の量を減らして育てられた素材を利用することを推進しています。農薬や殺虫剤を使わずに綿花を育てることは手間がかかり、人件費もかかります。
しかし、その価値を私たちが知ったうえでエシカルファッションを「選ぶ」ことで、世界全体の農薬や殺虫剤使用量を減らし、地球環境への負荷を減らすことができるのです。
衣服の漂白に用いられる漂白剤
エシカルファッションが解決する課題の2つ目は、衣服の漂白に用いられる漂白剤が環境に与える負荷の軽減です。
真っ白なコットンのシャツは清潔感があり、カラフルに染色された布は美しく見えます。しかし綿花はもともと薄い茶色をしています。
オーガニックコットンの色などがその例です。
それを真っ白にしたり、鮮やかな色に染めたりするには、大量の塩素系漂白剤などの化学薬品を使う必要があります。
この化学薬品を使うことで、水は汚染され、環境に負荷がかかります。エシカルファッションでは、染色や漂白を行う時もなるべく環境負荷が少ない方法を選択し、環境への負荷を減らすことができるのです。
児童労働やリヴィングウェイジ
エシカルファッションが解決する課題の3つ目は、児童労働やリヴィングウェイジが保証されていないことなどの人権に関する問題の解決です。
先述した「ラナ・プラザ崩落事故」にもあったように、衣料品を安価に生産するために発展途上国で労働者の人権を無視して働かせている現状があります。
◆リヴィングウェイジとは
リヴィングウェイジとは、労働者が最低限の生活を送るために必要な賃金を算出して決定されたものです。具体的には医療保険などに入れる・子どもを学校に通わせられる・栄養のある食事を取れるといった項目が設定されていています。
国や地域で決められた「最低賃金」は、上記のような社会保障・教育・食生活は検討材料には入っておらず、より生活者に優しい基準がリヴィングウェイジと言えます。
途上国の多くの労働者はリヴィングウェイジを下回る報酬しか受け取れず、加えて健康や安全性にも難がある劣悪な労働環境に置かれているのです。
◆健康・安全への配慮も求められる
服を作る工程で殺虫剤や鉛などの染料、化学物質にさらされることで体調を崩し、最悪の場合死に至る人もいます。IIS大学の調査によれば、布を切る工程で35%の労働者が骨格筋の不調を訴え、20%の労働者にけいれんや呼吸器障害が見つかっているのです。法制の工程では55%の労働者が骨格筋の不調、40%が頭痛のような神経の問題を抱えています。
エシカルファッションは、ファッションに関わる労働者に適正な賃金が支払われることや労働環境の改善・児童労働の撲滅など様々な課題を解決に導く考え方なのです。
エシカルファッションの実践に向けて
エシカルファッションが解決する問題について知り、エシカルファッションを実践していきたいと思った時、私たちはどのように行動すればよいのでしょうか。
エシカルファッションを実践する方法の1つに、スロー・ファッションを意識することが挙げられます。
スロー・ファッションとは、大量生産、大量消費のファスト・ファッションの対極に位置するもので、良いものを長く使っていこうという考え方です。スロー・ファッションはエシカルファッションと密接な関係にあり、私たちが日常生活でも取り組める行動のなかの1つです。
ここからはさらに理解を深めるためにも、まずはファスト・ファッションとスロー・ファッションという2つの考え方から見ていきましょう。
ファスト・ファッション
ファスト・ファッションとは 、最新の流行を取り入れながら低価格に抑えた衣料品を世界的に大量生産し、販売するブランドのことです。
2000年代半ばごろから「早くて安い」ことが特徴のファストフードになぞらえてこう呼ばれるようになりました。ファスト・ファッションは安価で流行を抑えた衣料品を手に入れられることから、お金を掛けずにファッションを楽しめるというメリットがあります。
しかし、安価な衣料品を大量に販売するためには、人件費を削る必要があります。
崩落事故が起きたラナ・プラザで働いていた方々の時給はおよそ13円だったと言います。
バングラディシュの縫製産業で働く人の数はおよそ400万人。その大半が安い賃金で働いているのです。
◆大量生産→大量消費→大量廃棄の負の連鎖が発生
さらにファスト・ファッションの流行は、大量廃棄の負の連鎖をもたらしました。
毎年ファッション業界から廃棄される繊維の量は9200万トン、日本では2009年の中小企業基盤整備機構の資料によれば、94万トン、約33億着にも上るのです。
流行遅れになり、捨てられる服の中には一度も着られない新品の服もあります。
小島ファッションマーケティングの分析によれば、2018年に日本国内に出回った衣料品は29億点。これに対し購入されたのは約13億点で、半数以上が売れ残っています。
売れ残りはアウトレットやセールで販売されますが、それでも売り切れなかった在庫は廃棄されるのです。ファスト・ファッションは手軽にファッションを楽しめるという点で私たちの心を掴みました。
しかし、安価な服を使い捨てていくライフスタイルは様々なひずみを生み出していることを忘れてはいけません。
スロー・ファッション
ファスト・ファッションが抱えるこれらの課題を解決するために生まれたのが「スロー・ファッション」という考え方です。
スロー・ファッションは、高品質の服を長く楽しみます。流行を追いかけるのではなく、自分が「良い」と感じた服を長く愛用することで、資源を無駄にせず、環境に配慮しながらファッションを楽しむのです。
持続可能な服選びのコツ
「スロー・ファッション」を実践することはエシカルファッションへの第一歩です。
そのためにも一着の服を購入する際に「様々な観点から選ぶ」ことを意識しましょう。デザインや流行を追うのではなく、素材、製造のプロセス、取引の仕方などでエシカルであるかどうかの見極めが重要です。
オーガニック素材を用いているか、フェアトレードであるか、他にもブランドとしてエシカルファッションの実現に向けてどのような努力しているかを確認するようにしましょう。
しかし、エシカルファッションを選択してもわたしたちがすぐに服を使い捨ててしまえば意味がありません。
エシカルファッションは消費者である私たちにも責任があるのです。
エシカルファッションの有名ブランド
ここまでエシカルファッションについて詳しく見てきました。
続いてはエシカルファッションに取り組んでいるブランドを紹介します。
パタゴニア
アウトドア関連の有名ブランドであるパタゴニアは、フェアトレード、オーガニックコットンやサステナビリティ環境助成金プログラムなどを実施しています。
パタゴニアの詳細はこちら
ヴィヴィアン・ウェストウッド
ヴィヴィアン・ウェストウッドは、国際貿易センターが行う「エシカルファッションプロジェクト」ともコラボレーションしています。
オーガニックコットン、フェアトレードにも積極的です。
ヴィヴィアン・ウェストウッドの詳細はこちら
ステラ・マッカートニー
ブランド立ち上げから「サスティナビリティ」をテーマに掲げており、皮革、毛皮の使用は一切ありません。
オーガニック繊維や再生繊維も積極的に使用しています。
動物愛護協会や児童保護団体などにもチャリティー支援を行うなど、様々な面でエシカルファッションの実現を目指すブランドです。
ステラ・マッカートニーの詳細はこちら
No Nasties
綿花の栽培地として知られるインドで、オーガニックとフェアトレードをキーワードに設立されたブランドです。
インドでは30分に一人の農民が自殺を強いられていると言われています。
この現実に向き合うために、フェアトレードとオーガニックを浸透させ、農家の人々の生活を守り、幸せになることを目的としており、エシカルファッションに強いこだわりがあります。
No Nastiesの詳細はこちら
People Tree
フェアトレードとオーガニックコットンにこだわってものづくりをするブランドです。
会社自体がフェアトレードを専門に行う団体として、世界フェアトレード連盟の認証を受けています。
環境や自然素材、手仕事にこだわりたい方におすすめです。
People Treeの詳細はこちら
H&M
H&Mは先述したファスト・ファッションのブランドの1つと言えるでしょう。
しかしH&Mは手頃な製品価格を保ちながらも、労働条件や環境、動物への福祉などあらゆる問題を解消するための取り組みを行っています。
古着回収サービスも行っており、2013年より世界中の店舗に回収ボックスを設置し、衣類のリサイクル&リペアも推進しています。
ここで挙げた6つ以外にも、エシカルファッションブランドは存在します。
詳しくはこちらの記事「エシカルファッションブランドとは?各国のおすすめのブランド一挙ご紹介」をご覧ください。
エシカルファッションで持続可能な社会の実現へ
ここまでエシカルファッションについて見てきました。
ファッションは身近な楽しみですが、安価な服を使い捨てることは、地球環境だけでなく人権にも関する大きな課題を抱えています。
これらの課題を解決し、持続可能な社会を作っていくためにも、エシカルファッションという考え方や、それに基づいた商品を選ぶことを意識していきましょう。