皆さんはパーム油をご存知でしょうか?実はパーム油は日本では誰もが日常で口にしている油です。
本記事では、パーム油の危険性や地球規模で抱えている問題について詳しく解説していきます。
パーム油とは
まずは、パーム油の原料やどこで作られているかについて見ていきましょう。
パーム油の原料は「アブラヤシ」
パーム油は、「アブラヤシ」という植物から採れる植物油です。実一つで20~40kgほどもあり、その中に多くて約2,000個もの果実の房がぎっしりつまっています。果房の実部分からは「パーム油」、種部分からは「パーム核油」を採ることができます。
間違われやすいのが「ヤシ油」で、これはココヤシの実から採れるココナッツオイルのことを指しています。
パーム油は世界でいちばん生産されている油
引用:パーム油白書
現在世界では、約7,000万トンのパーム油が生産されており、大豆油や菜種油と比べても、その生産量の差は歴然としています。
(スーパーでよく目にする「サラダ油」の原料は大豆や菜種、ひまわりなどを原料にしています)
引用:WWFジャパン
パーム油の生産量は2002年時点では約2,500万トンでしたが、毎年生産量は増え続けています。今後も増加することが見込まれ、2010年〜2030年の20年間で、世界のパーム油の生産量は約3倍になるとも予想されています。
生産量が増え続ける理由は後述しますが、世界中でパーム油の需要が伸び続けています。
パーム油の生産量の8割はインドネシアとマレーシア
引用:パーム油白書
この表を見てもわかる通り、パーム油の約90%がインドネシアとマレーシアで生産されています。アブラヤシは、日差しが強く、雨量の多い熱帯地域でしか栽培できないためです。
この中でも、インドネシアでの生産量はマレーシアの2倍以上となっています。
パーム油は何に使われているの?
世界でいちばん生産されているパーム油ですが、日本人はあまりピンとこないかもしれません。それは、パーム油が「見えない油」として生活の中にすでに浸透しているからです。
パーム油は「見えない油」
「見えない油」とはどういうことでしょうか?
パーム油が商品として使われる際、原材料名では以下のような名称が使われています。
植物油脂
ショートニング
マーガリン
グリセリン
界面活性剤
これらは、市販のポテトチップスや菓子パン、カップラーメン、クッキーなどのお菓子に多く記載されているので、見たことがある方も多いのではないでしょうか。原材料の表記がされていなくても、ファストフードや惣菜の揚げ油にはパーム油が使われることが多く、日本人は一年間で平均して4kgものパーム油を食べているといわれています。
食品から洗剤まで幅広く利用されている
参考:農林水産省「我が国の油脂事情」パーム油・核油用途別消費量(2022)をもとにグラフ作成
このグラフは、国内でどんなものにパーム油が使われているのかを示しています。グラフの「その他加工用」にあたるのが植物油としてスナックやお菓子、パンなどに使われている部分で、日本人は食用としてパーム油を多く使っていることがわかります。
「非食用」には、食器や洗濯用の洗剤をはじめ、シャンプーや石鹸としてパーム油が使われている割合を示しています。
家庭用より、メーカーや外食産業で多く使われていることも「見えない油」と言われる所以です。
パーム油はなぜ世界的に需要があるのか ?そのメリットとは?
食品から非食用まで、さまざまな用途に使えるパーム油ゆえに、世界的に需要が高まってきています。
パーム油のメリット①大量生産できる
引用:WWFジャパン
1ヘクタールの土地から出来る植物油の量は、パーム油が圧倒的に多く、苗を植えた後は、約20年以上も収穫することができます。他の植物油に比べて生産効率が高いことで、安価な供給につながっているのです。
パーム油のメリット②使い勝手がいい
先述したように、パーム油は驚くほどさまざまな使い方ができます。チョコレートやアイスクリームなどのトロっとした口どけも、クッキーなどのサクッとした食感も出すことができます。液体として使用すればポテトチップスやフライドポテトなどの揚げ油としても使えます。化粧品にすればなめらかなテクスチャーを出すこともできて、シャンプーや石鹸、掃除用品にも使えます。
企業にとってはとても使い勝手がよく、汎用性の高い油なのです。
パーム油のメリット③トランス脂肪酸の代替品になる
近年「トランス脂肪酸=身体に悪い」という考えが定着し、マーガリンを「食べるプラスチック」と呼ぶ人もいます。トランス脂肪酸の過剰摂取は心筋梗塞や冠動脈疾患を引き起こす可能性が高いとされ※1、海外ではトランス脂肪酸を含んだものは禁止されている地域もあります。
日本でもトランス脂肪酸に対する危険性の認知が広がったことから、低減対策としてパーム油が注目されています。
パーム油のデメリット・危険性とは?
安価で使い勝手がいい、トランス脂肪酸の代替品にもなるパーム油。しかし、パーム油が安全かというと、そうとは限りません。
パーム油に潜む大量の添加物、そこには発がんの危険性も。
パーム油は、長期間の輸送による酸化を防ぐため、酸化防止剤としてBHA(ブチルヒドロキシアニソール)という食品添加物が大量に使用されています。
BHAは、1998年に食品衛生調査会でラットに対する発がん性を確認しています。
また2008年にも、”パーム油は動物実験で発癌促進、 寿命短縮などの有害作用を示す”と論文に記されるなど、パーム油の安全性が確立されてるとはいえません。
参考:農林水産省
パーム油が抱える5つの問題点
健康面だけでなく、パーム油は数々の大きな問題も抱えるようになり、地球規模で深刻な事態に陥っています。
問題点①熱帯林の破壊
パーム油の二大生産地であるインドネシアとマレーシアでは、熱帯林を大規模に伐採し、大型のアブラヤシ農園が次々に作られました。
画像引用:WWF
この画像は、インドネシアのスマトラ島の森林の割合の推移を示しています。左上の30年前と比べて、2016年には森は半分以下に減少。低地の森はほぼ消失してしまいました。
問題点②泥炭地の破壊
熱帯林に隣接するように広がっている泥炭地も破壊が進んでいます。泥炭地でアブラヤシを栽培するためには大がかりな整備が必要です。泥炭は露出して空気に触れると、水中で蓄えられていた大量の温室効果ガスを放出します。これを燃やすと、さらに多くの二酸化炭素が大気中に放たれてしまうのです。
問題点③森林・泥炭火災
熱帯泥炭地は「地球の火薬庫」と呼ばれるほど火災のリスクが高いです。2015年にインドネシアで起きた大規模な森林火災では、日本の化石燃料の年間排出量を超える約16億トンの温室効果ガスが排出されたと言われ、周辺国にも大きな影響を及ぼしました。
問題点④野生動物への影響
アブラヤシ農園を拡大することで、多くの野生動物が住みかを失いました。今ではボルネオ島のゾウの生息数は1500頭以下、スマトラ島のオランウータンの生息数は6600頭以下、トラは500頭程度にまで減少しており、特にオランウータンは絶滅が危惧されています。
ハロウィーンイベントの裏で犠牲になるオランウータン
10月31日のハロウィーンイベントでは、世界的にお菓子の需要が高まります。楽しいイベントの裏では、お菓子を作るためにパーム油が使われ、犠牲になっているオランウータンの存在があるのです。
画像引用:エネルギー源としてのパーム油の持続可能性と認証制度
森林の消失と比例するように、ボルネオ島のオランウータンはこの30年間で80%も減少してしまいました。
住みかを追われたオランウータンが人間の住む土地やアブラヤシ農園へと入り込むようになると、害獣として殺害されることもあります。無計画なパーム油の生産拡大が自然環境と野生動物の生態系を壊してしまっているのです。
参考:国際自然保護連合
これに対して、ハロウィーンの時期に動物園や保護施設などが中心となった啓蒙活動も広がっています。
これは、「オランウータンの森を壊さない取り組みをしているお菓子メーカー」が載っているリストです。私たちが意識してお菓子選びすることで、救われる命があるのです。
問題点⑤人への影響
野生動物だけでなく、森で暮らす先住民や地域の住人にも被害は及んでおり、住む場所を失うケースもあります。また、同様に深刻なのが労働問題です。
違法労働と人権侵害
アブラヤシ農園はその大きさゆえに、日雇い労働者などの安価な労働力に支えられています。最低賃金以下の給料をはじめ厳しいノルマ設定、農薬散布による健康被害などが問題となっています。
またマレーシアのアブラヤシ農園では、インドネシアやバングラデシュなどからの移民が働くケースが多く、厳しいノルマを達成するために子どもを農園で働かせていることもあります。児童労働によって教育の機会を奪われてしまっているのです。
土地の紛争問題
アブラヤシ農園を開発する際、土地の権利をめぐって紛争に発展するという事態が頻発しています。この背景には、もともと土地の境界があいまいなことや、土地の権利が企業や政府に認識されていないことが挙げられます。
インドネシアでは約600件の土地紛争があるとされ、そのうち約100件がアブラヤシ農園に関わっていると指摘されています。
違法な操業と汚職
インドネシアやマレーシア政府のガバナンスの脆弱性はNGOからも指摘されているほどで、土地開発権の認可が汚職の温床になっています。これに加えて無許可や土地権を無視した農園開発、保護区の国立公園を農園にしてしまうなどの事例もあります。
持続可能なパーム油生産のために
多くの問題を抱えながらも、汎用性や利便性の高さから、パーム油を全く使わないということは現実的ではありません。
大切なのは、人にも地球にも優しい生産環境と製品サイクルを構築することです。以下、詳しく見ていきましょう。
RSPO認証制度
RSPO(「持続可能なパーム油のための円卓会議(Roundtable on Sustainable Palm Oil))は、パーム油に関わる7つのステークホルダーによって構成されている非営利の国際組織です。
アブラヤシ農家をはじめ、農園を所有する企業や製油・加工会社、スーパーなどの小売業、またWWFのようなNGOなど、パーム油の生産と利用をめぐるさまざまな企業や団体、個人がメンバーとして参加し、パーム油の持続可能な生産と利用を目指しています。
RSPO認証マークの一例
画像引用:SARAYA
日本企業も続々と加盟
日本企業でも年々RSPOに加盟する企業は増えています。
特に東京オリンピック・パラリンピックの開催時、調達が必要な全ての物品に対して「持続可能性への配慮を求めた、調達コード(基準)」が定められました。ここで、パーム油についても認証済みのものを使用するよう求められたことで、2017年ではRSPO加盟企業が77社だったのが、2022年には223社になりました。
大手食品メーカーも多数加盟しており、認証制度は浸透してきています。
パーム油問題に対して私たちができること
パーム油が抱える問題は地球規模のものですが、私たち一人ひとりにもできることはあります。
できること①RSPO認証製品を選ぶ
一つ目は、RSPO認証を取得したパーム油を使った製品を選ぶようにすることです。
日本企業のRSPO加盟が進むにつれ、スーパーでもシャンプーや石鹸、洗剤などにRSPOのマークがついた商品が増えてきました。
一人ひとりの購買行動が変わることは、森林や野生動物を守ることにもつながります。
できること②「パーム油フリー」の製品を選ぶ
パーム油を全く使用していない「パーム油フリー」の製品もあります。
【洗濯用・台所用石けん】 エティーク|フラッシュ! 100g
画像引用:エティーク|フラッシュ! 100g
こちらは、環境に優しい100%生分解性原料を使用したethique(エティーク)の洗濯・台所用固形洗剤です。
油汚れ・襟や袖の汚れなどをしっかりと落としてくれるうえに、固形なので、旅行やキャンプなどの外出時にも持ち運びできます。
1個で食器用洗剤・洗濯用洗剤・衣類の部分洗い用洗剤として使用できる優れものなので、ぜひ試してみてくださいね。
ethiqueは、「オラウータン・アライアンス」という機関から正式にパーム油不使用の認定を受けました。製品だけでなく、原料の生産・製造工程全てにおいてパーム油やその派生物が一切含まれていないことが証明されています。
ecoffee cup オランウータンカップ(グリーン)
画像引用:オラウータンカップ(グリーン)
こちらのBPAフリーのマイボトル「ecoffee cup」は、購入すると売上のうち3%が野生動物を守る「緑の回廊」をつくるプロジェクトに取り組む認定NPO法人ボルネオ保全トラスト・ジャパンに寄付されます。森を増やす支援にもつながるこのボトルは、本体も環境にやさしい設計で作られています。ボトル全面に描かれたかわいらしいオランウータンのデザインは、お子様用のボトルとしてもおすすめです。
パーム油の背景を知って、賢く生活に取り入れよう
パーム油は何に使われているか、どうやって生産されているかなど、なかなか普段の生活で気にかけることは少ないかもしれません。本記事を最後まで読んでいただいたあなたなら、手軽に食べられるスナック菓子が環境や生態系の破壊につながっていると理解いただけたのではないでしょうか。
まずは日々お買い物で少しずつ意識していくところからはじめてみましょう。