近年耳にする機会が増えたSDGs。
テレビでも特集が組まれるなど、日に日に注目度が高まっています。
この記事を読む方は、SDGsの概要はわかり、そこから各目標について理解を深めようとしている方が多いのではないでしょうか。
本記事で取り上げるSDGs13「気候変動に具体的な対策を」は、実はSDGs全体の根幹に関わる目標です。
難しい内容のため一度で完璧な理解は難しいかもしれませんが、具体例を交えながらポイントをピックアップしたので、構えすぎずに読み進めてくださいね。
>>SDGsの概要が知りたい方は以下の記事をご参照ください。
SDGsとは|概要や背景・日本や世界の取り組みまで |
SDGs13「気候変動に具体的な対策を」とは
SDGs目標13「気候変動に具体的な対策を」は、地球の温暖化などの気候変動への対応が求められています。SDGs目標13の「気候変動に具体的な対策を」はキャッチコピーで、正式な目標の和訳は「気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる」です。では今地球ではどのような気候変動が起きていて、どこに影響がでているのか。気候変動に焦点を当てたSDGs目標13をより理解するために、次は設定されたターゲットの確認です。
SDGs13のターゲット
ターゲットとは具体的な行動指針のようなもので、「目標番号.●」の●に数字が入る場合(例:15.1など)は目標に対する具体的な課題を挙げて、「これを達成させましょう」という意味で、●にアルファベットが入る場合(例:15.b)は課題を達成させるための手段や策を指します。
詳しい説明は後述するので、まずは一通り目を通してみましょう。
13.1 |
すべての国々において、気候関連災害や自然災害に対する強靱性(レジリエンス)及び適応力を強化する。 |
13.2 |
気候変動対策を国別の政策、戦略及び計画に盛り込む。 |
13.3 |
気候変動の緩和、適応、影響軽減及び早期警戒に関する教育、啓発、人的能力及び制度機能を改善する。 |
13.a |
重要な緩和行動の実施とその実施における透明性確保に関する開発途上国のニーズに対応するため、2020年までにあらゆる供給源から年間1,000億ドルを共同で動員するという、UNFCCCの先進締約国によるコミットメントを実施するとともに、可能な限り速やかに資本を投入して緑の気候基金を本格始動させる。 |
13.b |
後発開発途上国及び小島嶼開発途上国において、女性や青年、地方及び社会的に疎外されたコミュニティに焦点を当てることを含め、気候変動関連の効果的な計画策定と管理のための能力を向上するメカニズムを推進する。 |
*国連気候変動枠組条約(UNFCCC)が、気候変動への世界的対応について交渉を行う基本的な国際的、政府間対話の場であると認識している。 |
ターゲットを読んでもいまいちピンとこないのではないでしょうか。
そして13.bの下にある注釈もどういった意味を持つのかわかりにくいと思います。
そこで続いては、SDGs目標13をより具体的に考える上で押さえておきたいキーワードをピックアップしました。
SDGs13を考える上で押さえておきたいキーワード
SDGs目標13には、「国連気候変動枠組条約(UNFCCC)が、気候変動への世界的対応について交渉を行う基本的な国際的、政府間対話の場であると認識している。」と注釈が入っています。
実はこの内容は、目標13のターゲット全体の内容を理解するうえで非常に大切なので、詳しく説明します。注釈を考える上でキーワードとなるのは、①UNFCCC②COP21③パリ協定の3つです。
順を追って見ていきましょう。
①UNFCCC
UNFCCCとは、国連気候変動枠組条約(United Nations Framework Convention on Climate Change)の略称です。1992年にリオデジャネイロで行われた「国連環境開発会議」で、地球温暖化に関する国際的な条約として設定されました。②COP21
①UNFCCC(国連気候変動枠組条約)の設定後、1995年から条約に関する会議が開催されるようになります。その第1回会議を「COP1」、1996年の第2回会議を「COP2」と、開催順に数字がつけられており、COP21は、2015年11月フランスのパリで開催された21度目の会議のことです。
③パリ協定
②COP21では、主に2020年以降の温室効果ガス削減についての議論が交わされ、「③パリ協定」が採択。③パリ協定は「世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求する」目標です。「2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求する」と少々曖昧な表現であるのは、先進国と途上国での考え方が異なり、議論がなかなかまとまらなかったことにあります。
③パリ協定が話し合われた背景には、1997年に京都で開催したCOP3にて採択された「京都議定書」(温暖化対策に関する目標を定めたもの)の期限が2020年に設定されていたため、その後継となる目標が必要だったことにあります。
妥協案で数値が決定
先進国と途上国の主張の違い先進国は、これまでの世界をとりまく状況や今後の対策準備などの展開を考え、現実的な数値は「2℃」までに抑えることであると主張しました。それに対して途上国は、これまでの温暖化の原因は産業を発展させてきた先進国にあり、「2℃」では責任を果たしていないと考え、「1.5℃」に抑えるべきだと主張したのです。議論は平行線を辿り、妥協案として「世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求する」という表現で設定されたのです。
ここまでの話を要約すると、①UNFCCC(国連気候変動枠組条約)を話し合う会議である②COP21で取り決められたのが③パリ協定ということです。(参考:NHK「1からわかる!地球温暖化(1)パリ協定って何?」)
パリ協定の目標を押さえたところで、次でSDGs目標13との関係性を見ていきましょう。
SDGs13とUNFCCCの関連性
パリ協定がなぜSDGs目標13の注釈に含まれているのか?これは、SDGsとCOP21が開催された時期にあります。
SDGsは2015年9月の国連サミットで採択されたものですが、同時期にCOP21が開催されており、2015年11月にパリ協定が採択されました。つまり、SDGsが決定したタイミングでは、まだパリ協定の方向性が決まっておらず、具体的な内容を盛り込むことができなかったのです。
そこでこのような注釈をつけ、その後に決まる温暖化にまつわるパリ協定の取り決めを全面的に反映させる形にしました。(参考:蟹江憲史著「SDGs(持続可能な開発目標)/中公新書」)
SDGs目標13が掲げる「気候変動に具体的な対策を」が、地球の温暖化に焦点を当て、改善して行こうといった意味合いを持つことがわかりますよね。
では、これを踏まえた上でSDGs目標13のポイントを見ていきましょう。
なぜ目標13「気候変動に具体的な対策を」が必要なのか
目標13「気候変動に具体的な対策を」が制定された理由は、地球環境を脅かす”温暖化”を改善するためです。温暖化を改善するために、まずは原因を探っていきましょう。
地球温暖化の原因は温室効果ガスの増加
温暖化の原因は、温室効果ガスの増加によるものです。とはいえ、温暖化についてのニュースや記事で、「温室効果ガス」や、「二酸化炭素」という言葉が頻発し、曖昧な部分もあるのではないでしょうか。
そこでまずは、温室効果ガスと二酸化炭素の関係を確認します。
温室効果ガスの構成要素の一部が二酸化炭素
温室効果ガスとは、地球に温室効果をもたらす気体の総称です。温室効果をもたらす気体には、水素、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素、フロンなどが挙げられます。
このなかで75%の割合を占めるのが二酸化炭素です。
引用元:気象庁
このことから、世間では特に二酸化炭素の減少が謳われることが多いのです。
◆二酸化炭素は海洋にも影響
先述した海面、海水温の上昇は気温が高くなることで引き起こされるものでしたが、二酸化炭素が増えたことにより海洋が酸性化してしまう現象も確認されています。海洋酸性化とは、大気中に放出された二酸化炭素を海洋が吸収して海洋自体が酸性化してしまうことです。この海洋酸性化が進むと、海水中の化学性質が変化してしまい、海洋の二酸化炭素を吸収する力が低下。その結果、吸収しきれない大気中に残る二酸化炭素の割合が増えて、温暖化がさらに加速すると考えられているのです。
加えて海洋が酸性化することで、化学反応により貝類やサンゴが骨格や貝殻を形成できなくなるなど生態系への影響も懸念されています。
続いては温暖化のメカニズムを見ていきましょう。
温暖化のメカニズム
現在の地球の平均気温は約14℃と言われていますが、大気中の温室効果ガスがこの気温を保つ役割を果たしています。万が一温室効果ガスがゼロであれば、地球の気温は−19℃になるとのことです。
出典:温室効果ガスインベントリオフィス 全国地球温暖化防止活動推進センターウェブサイトより
地面が太陽の光によって暖められ、その地表から発する熱を温室効果ガスが吸収することで大気を暖め、一定の気温に保っています。地球上で生物が生きていく上でなくてはならない温室効果ガスですが、産業革命以降の人間活動の活発化により、過剰に排出されています。増加した温室効果ガスは、それまで以上に熱を蓄えるため、地球の温度もどんどん上がってしまうのです。
ここまでがSDGs目標13「気候変動に具体的な対策を」が掲げる気候変動の詳細です。
そしてこの目標13の達成こそ、SDGsの達成の鍵を握っているのです。
(参考:気象庁「温室効果ガスの種類」,気候変動2007: 統合報告書,気象庁「海洋酸性化」,JCCCA「1-3 温暖化の原因は?」)
世界の地球温暖化の現状
SDGs目標13のポイントは「地球温暖化の改善」となるわけですが、そのためにはまず温暖化の現状を知る必要があります。この温暖化の影響で主に挙げられるのは、平均気温の上昇です。
ここから派生する4つの弊害を確認しましょう。
平均気温の上昇
地球の平均気温は年々上昇傾向にあります。
下の表は、1880年から2012年の世界の地上気温の変化を示したものです。
出典:温室効果ガスインベントリオフィス 全国地球温暖化防止活動推進センターウェブサイトより
この表は、1961年〜1990年の平均気温を基準(0.0)として、そこからの差異がまとめられています。これを見ると、1880年から2012年の間に0.85℃上昇していることがわかります。(表を読み込もうとすると、専門的な知識や様々な前提が必要なため、気温が上昇している、程度の認識で良いでしょう。)
今後この気温は上がり続け、2100年には最大で4.8℃も上昇することが予測されています。
出典:温室効果ガスインベントリオフィス 全国地球温暖化防止活動推進センターウェブサイトより
オレンジ箇所が、対策を講じなかった場合に予想されるシナリオで、青箇所が「2℃」に抑えるための取り組みを行なった場合の予想シナリオです。この気温の上昇によって「北半球の雪氷の減少」「海面水位の上昇」「海面水温の上昇」が見られるようになりました。
1つずつ簡単に見ていきましょう。
北半球の氷雪の減少
北半球の春季(3月〜4月)の積雪面積は減少傾向にあります。
積雪は太陽の光を反射し、熱が吸収されにくいという特性がありますが、これが減少することで温暖化が加速すると言われているのです。
また、北極の海氷も温暖化の影響で溶けてしまい、海氷面積も減少していることがわかっており、これは海面水位の上昇にもつながっています。
海面水位の上昇
海面の水位は1901年から2010年の約100年の間に19cmほど上昇しました。
1年あたりの海面上昇の平均は1.7mmですが、1993年から2010年は3.2mm上昇するなど、急激な変化が見られます。
このまま対策をしなければ21世紀末には0.82m上昇するとの予測もあります。海面が上昇すると、海抜の低いフィジー諸島共和国、ツバル、マーシャル諸島共和国などの島国は高潮の被害を受けやすく、潮が満ちると住宅街に海水が浸水してしまいます。
日本でも海面が1m上昇すると砂浜の9割が失われると見られており、生物の産卵や鳥の餌場がなくなるなど生態系にも影響を及ぼします。
この海面水位の上昇は、先ほどの海氷が溶けることに加えて海水温度の上昇が主な原因です。
海水温度の上昇
海水温度も年々上昇を続けています。
出典:気象庁「海面水温の長期変化傾向(全球平均)」
“各年の値を黒い実線、5年移動平均値を青い実線、長期変化傾向を赤い実線で示します。平年値は1981〜2010年の30年平均値です。”
引用元:気象庁「海面水温の長期変化傾向(全球平均)」
2019年の年間の平均海面水温の平年差は+0.33℃で、統計を開始した1891年以降で最も高い数値となりました。
さらには直近の6年間(2014年から2019年)の数値はすべて歴代6位に入ることから、海面水温の上昇が顕著に表れています。
海面水温が上昇すると海水は膨張(水の温められると膨張する性質と同じ原理)し、海面水位も上昇してしまうのです。
このように温暖化は刻一刻と進んでおり、地球へのダメージはもちろん、我々の生活にも弊害をもたらしています。
(参考:環境省「温暖化から日本を守る 適応への挑戦」,JCCCA「2-2 海面上昇の影響について」,気象庁「海面水温の長期変化傾向(全球平均)」)
気候変動が生活に与える影響や問題点
温暖化は、先述した海面上昇による高潮や住宅地への浸水以外にも、生活に影響を与えると言われています。IPCC第4次評価報告書統合報告書では、温暖化の影響を以下のようにまとめています。出典:気候変動の観測・予測及び影響評価統合レポート 『日本の気候変動とその影響』 (2012 年度版)
例えば、「湿潤熱帯地域と高緯度地域における水利用可能量の増加」であれば、およそ0.2〜0.3℃気温が上昇することで、影響が見られ始めるということ。
この表を見る限り、たった0.1℃気温が上がっただけでも影響がでることがわかります。ここで触れられている水、生態系、食料、健康、異常気象について、予想される影響を日本と世界に分けて詳しく見ていきましょう。
水:水不足や水質悪化
◆世界への影響
アフリカなどの乾燥地域で降水量が今よりも減り、水ストレス※1に陥る人々が増加することが予想されています。◆日本への影響
雨が降らない日数の増加や積雪量の減少により、渇水の増加が予測されています。また、河川や湖、海では気温の上昇によりプランクトンが増えたり、水の循環(地表の水が蒸発して雲となり、雨が降って再び地に水が流れ川に集まり、海まで到達するサイクル)が十分に行われなくなるなどで、水質が悪化する可能性があるようです。
生態系:生態系の変化で感染症が広がる
◆世界への影響
共通生態系は、海水温の上昇と海洋酸性化の影響でサンゴが白化※2してしまう他、マラリアやデング熱などの原因となる蚊の分布が変わり、感染症にかかる人々が増加することが予測されています。食料:食糧不足や異質な農作物の増加
◆世界への影響
水不足や気温の上昇により作物の生産力の低下が予測され、さらには病害虫の活性化にもつながり、農作物の収穫量が落ちると考えられています。国連広報センターの「事実と数字」によると、気温が1℃上昇すると穀物の収穫量は5%落ちます。現に1981年から2002年にかけて、トウモロコシや小麦、その他の主要作物の収穫量は大幅な減少が見られます。
◆日本への影響
日本でも農作物への影響が報告されています。
・受粉の役割を果たすハチの活動が鈍化することで着色不良のトマト
・強い日差しにさらされ、褐色の斑点ができるみかん
健康:熱関連疾患の増加
◆世界共通
先述した蚊の分布の変動による感染症の増加も健康へのリスクを高めるものですが、より気温と直結しているのは、熱中症などの熱関連疾患の増加です。日本でも熱中症の死亡者数は増加しており、2009年〜2018年の10年間で計9,055人が亡くなっています。1999~2008年の熱中症による死亡者数は3,954人であったことから倍以上増えているのです。
異常気象:頻度の増加
相関関係は未だ解明されてはいないものの、異常気象も温暖化の影響であると指摘されています。(世界気象機関(WMO)が、異常気象は地球温暖化の傾向と一致していると発表。)
異常気象とは、気象庁の定義によると
引用元:中央環境審議会地球環境部会 気候変動に関する国際戦略専門委員会提出資料
日本では「平成29年7月九州北部豪雨」、「平成30年7月豪雨」などの大雨や、2018年の記録的な猛暑など記憶に新しいのではないでしょうか。
これは世界共通の問題で、アメリカ南東部からカリブ海諸国にかけての地域で190名以上の犠牲者を出したハリケーン(2017年)、北極圏でも30℃を超える記録的高温など、これまでに体験したことのない異常気象が頻発しています。
ここまで気候変動(温暖化)が地球に与える影響を見てきました。
では、この温暖化はなぜ起きているのでしょうか。次の記事では、原因について説明していきます。
(参考:文部科学省 気象庁 環境省「気候変動の観測・予測及び影響評価統合レポート 『日本の気候変動とその影響』 (2012 年度版)」,水産庁「サンゴ礁の働きと現状」,国連広報センター「事実と数字」,朝日新聞デジタル「熱中症の死者、10年で倍増 コロナ対策と両立の工夫は」,環境省「第2章 気候変動影響への適応」)
温室効果ガス削減に向けた世界・日本の動向
まずはパリ協定に基づいた各国の温室効果ガス削減目標に対する進捗状況です。引用元:経済産業省 資源エネルギー庁
表の見方は、緑の点線が各国の温室効果ガスの削減目標で、緑丸が実際の推移となります。表中のGHGとは、温室効果ガス(greenhouse gas)の略称です。
"詳しいデータを経済産業省 資源エネルギー庁HPより抜粋しました。
●日本 | 「目標:2030年度に26%のGHG削減(2013年度比)」に対して、2016年度時点で7%の削減実績。目標ラインと同水準で、最近の動きは削減の傾向。 |
●英国 | 「目標:2030年度に57%のGHG削減(1990年比)」に対して、2016年時点で41%の削減実績。目標ラインと同水準で、最近の動きは削減の傾向。 |
●米国 | 「目標:2025年に26~28%のGHG削減(2005年比)」に対して、2016年時点で12%の削減実績。目標ラインから上ぶれ、最近の動きは削減の傾向。 |
●フランス | 「目標:2030年に40%のGHG削減(1990年比)」に対して、2016年時点で18%の削減実績。目標ラインから上ぶれ、削減傾向は横ばい。 |
●ドイツ | 「目標:2030年に55%のGHG削減(1990年比)」に対して、2016年時点で27%の削減実績。目標ラインから上ぶれ、削減傾向は横ばい。 |
特に目立つのはイギリスの減少で、他国と比べて倍近い量の温室効果ガスの減少に成功しています。
このイギリスを例に具体的な取り組みを見ていきましょう。
・SDGs13「気候変動に具体的な対策を」の達成に向けて私たちができること
SDGs13「気候変動に具体的な対策を」の達成に向けた世界の取り組み
イギリスによる様々な取り組みの中でも注目なのが「カーボンオフセット」と「カーボンニュートラル」の推進です。世界の取り組み:市民や企業を能動的に動かす仕組み=カーボンオフセット
カーボンオフセットとは、市民や企業が、
②その排出される温室効果ガスを削減するよう努力(車から公共交通機関を利用・エアコンの温度調節など)
③その上でどうしても削減できない温室効果ガスを把握し、他の場所で実現したクレジット※3購入。または、他の場所で温室効果ガスの削減に取り組む。
④どうしても削減できなかった温室効果ガスを、クレジット、他の場所での削減活動にて相殺
引用元:環境省 地球環境局地球温暖化対策課市場メカニズム室「平成28年度カーボン・オフセットレポート」
・太陽光発電などの再生可能エネルギーを導入
・エネルギー効率の良い機器を導入する
・森林の管理によって実現した温室効果ガスの削減
・吸収量を取引できる状態に数値化
したものを指します。
例えばA社が植林プロジェクトにより、温室効果ガスの削減に成功。このプロジェクトによる温室効果ガスの削減量がクレジットとなります。
カーボンオフセットに取り組むB社が、どうしても削減できない1トンの温室効果ガスを、A社が販売するクレジットを購入して埋め合わせするという流れです。
世界の取り組み:削減できなかった温室効果ガスを埋め合わせる仕組み(カーボンニュートラル)
カーボンニュートラルとは、カーボン・オフセットをさらに深化させた取り組みです。カーボンオフセットは、どうしても削減できなかった温室効果ガスの一部だけでも埋め合わせることで取り組みに参加しているといった側面を持ちます。
それに対してカーボンニュートラルは、削減できなかった分すべてを埋め合わせてプラスマイナスでゼロの状態を目指します。
このカーボンオフセットとカーボンニュートラルは、市民でも温室効果ガス削減への取り組みに参加できるメリットがあり、社会全体で一丸となって温暖化対策を加速させることができます。イギリスの様々な都市でカーボンオフセットとカーボンニュートラルの活動が進んでいますが、その中から特に成果の出ている「ニューカッスル・アポン・タイン」を例に、具体的な取り組みを見ていきましょう。
世界の取り組み:CO2排出ゼロを目指すニューカッスル・アポン・タイン
ニューカッスル・アポン・タインは、世界初のCO2排出ゼロの都市を目指して、2003年からカーボンオフセットの取り組みを開始しました。
市主導の取り組みではありますが、国や電力会社、公共交通機関からの基金をもとに仕組みを作成。
専門団体などステークホルダーとパートナーシップを組み、運営しています。
まず、市民や企業へカーボンオフセットの認知を高めるために、以下の方法をとりました。
・どのような取り組みがCO2削減につながるのかを提示
・削減できないCO2は、カーボンオフセットすることを推奨
具体的に行われた対応を市民・企業別に確認しましょう。
◆市民への対応
世帯でどれだけCO2が排出されているのかが分かる専用のサイトを整備。また、オフセットするための手続きはウェブで完結するようにし、支払額に応じて税金が控除されます。
◆企業への対応
運営団体がCO2の削減に関する助言を行ないます。そこで削減が難しいCO2に関してはカーボンオフセットを推奨。とりわけ排出量が多い企業については専門のコンサルタントがつくそうです。
また、運営団体への寄付をすることで法人税が免除されたりと、特典が受けられる仕組みになっています。
取り組みを開始した翌年の2004年には、年間5,000トンのオフセットが行われ、一定の成果をあげています。(内訳は個人20%・企業80%)
カーボンオフセット・カーボンニュートラルの問題点
社会全体を巻き込んで温暖化への意識を高めることのできるカーボンオフセット・カーボンニュートラルですが、一方で問題点も指摘されています。このカーボンオフセット・カーボンニュートラルが免罪符となり、お金さえ払えばCO2を排出しても許されるといった側面を持ち、根本的なCO2削減にはつながらないのでは、との声です。
確かに削減不可能なCO2は排出を続けており、これを完全にゼロにしなくてはCO2排出ゼロの都市は実現しません。
目標を達成するためにも根本的な解決も必要であるといえるでしょう。
とはいえ先述した通り、これらの取り組みの結果イギリスは大幅な温室効果ガス削減を実現しています。少なくとも国民や企業が温室効果ガス削減への意識を持つきっかけになっているのは間違いないでしょう。
一方、日本ではどのような動きがあるのでしょうか。
(参考:カーボン・オフセットフォーラム「カーボン・オフセット / カーボン・ニュートラルとは?」,環境省「オフセット・クレジット(J-VER)制度」,環境省「カーボン・オフセット」,環境省「平成28 年度 カーボン・オフセットレポート」,環境省「カ ボン オフセットの現状と ーボン・オフセットの現状と カーボン・ニュートラル」,国土交通省「気候変動の影響について」)
SDGs13「気候変動に具体的な対策を」の達成に向けた日本の取り組み
ここからは、日本の取り組みを確認していきましょう。環境モデル都市の選定開始
日本も温室効果ガスは減少傾向にあります。具体的な取り組みとしては、例えば2008年に日本を低炭素化社会(二酸化炭素の排出が少ない社会)に転換する環境モデル都市※4の選定をスタート。
さらに環境モデル都市を発展させ「環境未来都市」の選定を始めました。これは、「環境モデル都市」の要素に「環境・超高齢化対応等に向けた、人間中心の新たな価値を創造する都市」であることが加えられたものです。
つまり、より高いレベルで事業に取り組む自治体が選ばれるようになったのです。
【補足】
「環境未来都市」「環境モデル都市」の選定に加え、SDGsの手法を取り入れた「SDGs未来都市」の選定も2018年からスタートしました。「SDGs未来都市」に選定された自治体は、低炭素化社会に向けた取り組みを進めており、SDGs目標13「気候変動に具体的な対策を」とも親和性の高いものです。
詳しく知りたい方は、以下の記事をご参照ください。
>>SDGs未来都市をさらに詳しく知りたい方は以下の記事をご参照ください。
SDGs未来都市とは?|過去の選定結果・事例から傾向を知ろう! |
地方創生にはSDGsが欠かせない!|背景や取り組み事例で理解が進む! |
このように継続的な取り組みを続けたことが温室効果ガスの削減につながっていますが、現在のスピード間では温室効果ガス削減目標を達成することはできません。そこで2018年3月に環境省が、温室効果ガスの「長期大幅削減に向けた基本的考え方」をとりまとめました。
1.脱炭素化という確かな方向性と多様な強みでビジネスチャンスを獲得
2.民間活力を最大限に活かす施策によりイノベーションを創出
3.施策を「今」から講じ2040年頃までに大幅削減の基礎を確立
この3つの目標に共通しているのは、「技術のイノベーションにより温室効果ガスを削減させる」ということです。これは、行政だけではまかないきれないもので、民間企業や教育、研究機関と連携をとって進める必要があります。
これは、SDGs目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」とも関わりを持ち、多様なステークホルダーと連携を取ることで、今までにない技術で課題の解決にあたっていこうということなのです。
>>「長期大幅削減に向けた基本的考え方」について、詳しく知りたい方は環境省の資料をご覧ください。
「長期大幅削減に向けた基本的考え方」には、移動手段について繰り返し言及しています。これは、車から排出される温室効果ガスに注目し、ガソリン車に替わる低炭素な乗り物を採用することで削減できると考えられているためです。
そこで低炭素な乗り物であるLRTを軸にまちづくりをしている、栃木県宇都宮市の取り組みを紹介します。
LRTを軸に低炭素化の実現へ【栃木県宇都宮市】
引用元:宇都宮市
SDGs未来都市にも選ばれている栃木県宇都宮市は、まちの低炭素化を理念に、「まちづくりを支える人づくり」や交流を生み出す「SDGsに貢献する持続可能な”うごく”都市・うつのみやの構築」をコンセプトに掲げて取り組みを行なっています。
この中で、公共交通機関の拡大・持続可能な輸送システムへのアクセス提供を達成するための軸がLRTです。LRTとは、一見路面電車のように見えますが、最新の技術が搭載された乗り物で、次世代の輸送システムとして期待されます。
◆LRTの特長
※写真はイメージです。
特に環境面での影響が大きく、国立環境研究所によると、LRTは乗客1人を1km運ぶのに排出する二酸化炭素は自動車の移動の場合の51%であると試算しています。(車両の製造、維持管理、レールや道路の建設などによる二酸化炭素排出量を含めた結果)
また、LRT沿線に病院などを移転させることで、積極的なLRT利用につながるまちづくりを進めているのです。
他にもLRTには、
・車両の床が低く平らなことで、乗り場との間に段差や隙間がほとんどない
・専用レールを使うため陸の乗り物にも関わらず時間に正確な運行が可能
・道路上を走るため、ほかの交通手段(バスや電車・タクシーなど)との連携がスムーズ
LRTを導入することで、温室効果ガス削減に加え、アクセスが充実し生活様式・企業活動・まちづくりに様々な変化をもたらすことが期待できるようです。
このように、日本でも着々と温室効果ガス削減のための活動は進んでいますが、さらに加速するためには個人での取り組みも重要になります。最後に個人でもできる取り組みを見ていきましょう。
(参考:国立環境研究所「ライトレール(LRT)」,地方創生,宇都宮市 SDGs未来都市)
SDGs13「気候変動に具体的な対策を」の達成に向けた日本の企業の取り組み
SDGs13を達成するために、株式会社ピー・エス・インターナショナルが取り扱う固形シャンプーバー「エティーク」のご利用も1つの手です。ゴミ削減にもつながる固形シャンプーバー「エティーク」
固形シャンプーバーのエティークは、市場で販売されているビューティープロダクツが環境に与える問題に着目し、設立されました。年間800億本廃棄されるシャンプーとコンディショナーのプラスティックボトルは、たったの9%しかリサイクルされていません。そこで容器のない固形バー(髪や頭皮に必要な美容液成分と、必要最小限の洗浄成分を凝縮したシャンプー・コンディショナー)を作り、2019年までの7年間で600万本のプラスティックボトルの削減を実現しました。
さらに2025年までに5,000万本削減を目標にしています。
>>エティークについてさらに詳しく知りたい方はこちらの記事を参照ください。
固形シャンプーバー「エスティーク」について知っておきたいこと
エスティーク創業者 ブリアン・ウエストさんインタビュー|世界のサステナブルを加速するための取り組み
◆パッケージも環境に優しい
すべてのパッケージは生分解性(微生物によって分解される物質のこと)によるもので作っており、土に還ります。なおかつインクも植物からとれるベジタブルインクを使用しているため、例えば開けたパッケージに土とタネを入れて、植物を育てることもできるのです。
一定の大きさに植物が育ったあとは、庭にパッケージごと埋められるのでゴミの削減につながります。
SDGs13「気候変動に具体的な対策を」の達成に向けて私たちができること
私たちが生活の中でできることをいくつかピックアップしました。
2.車の停止時はアイドリングストップを心がける
3.テレビなどの電化製品は長期間利用しない場合はコンセントを抜く
4.ご飯を炊くジャーの保温機能を控える
5.エコバッグを持ち歩き、レジ袋を使わないようにする
6.オーガニック製品の選択を心がける
7.ゴミを増やさない努力をする
これらは日常生活の中で、今日からでも取り入れられるものばかりです。
ぜひ一つずつ始めてみましょう。
持続可能な地球を目指して
ここまで読んでいただきありがとうございます。SDGs目標13「気候変動に具体的な対策を」は、「パリ協定をベースに温暖化対策を考える」「温暖化による地球の影響を知る」「温室効果ガスの削減に向けた努力をする」がポイントとして挙げられました。
また、目標13の達成に向けた取り組みは、他のSDGsの目標とも密接に結びつく内容です。
1人1人が気候変動に関心を持ち、小さなことから取り組むことで子供や孫、さらにはその次の世代が住み続けられる地球を作ることができます。
そのためにも今日から自分でもできることをはじめていきましょう。